OKADA BRICK 岡田煉瓦製造所

Column

コラム

「謹製」という言葉に込めて

受け継がれる、
 ものづくりの姿勢

2026.10.10

焼き物の不思議。

― 計算が合わない。その違和感から気付いたこと ―

レンガは、焼くと縮みます。熱を加えることで「焼結」が進み、内部の空隙が小さくなっていく。私たち煉瓦メーカーにとって、これはレンガづくりの基本です。ところが先日、岡田煉瓦の窯で、これまでの経験だけでは説明できない現象が起こりました。

よく焼けているはずなのに、レンガの寸法が大きくなったのです。

今回は、そんな出来事をきっかけに考えた「焼き物の不思議」についてお話しします。

焼結すれば、レンガは縮む

レンガは、粘土を成形し、乾燥させ、高温で焼き上げてつくります。焼成によって収縮するため、完成寸法よりも大きく成形する必要があります。焼成中に温度が上がると、原料の粒子同士の結合が進み、内部の空隙が小さくなっていきます。この現象を「焼結」と呼びます。焼結が進むことでレンガは緻密になり、収縮していきます。

図:焼成温度と収縮率の関係を調べた実験結果。焼成温度が高くなるにつれて、焼結による収縮が進む様子を示しています。

このように、焼成温度と収縮率には関係があります。私たちは、こうした焼結の性質をもとに、完成寸法を計算してレンガを製造しています。

計算が合わないレンガ

岡田煉瓦では、通常とは異なる原料を使用したレンガのOEM製造も行っています。その中に、以前から収縮率が安定しない製品がありました。本生産の前にはテストピースを焼成し、収縮率を確認しています。今回のテストピースの収縮率は約9%でした。その結果を参考に、251mmの型を使用し、焼成後の長さ230mmを狙って製造しました。ところが、本生産では計算どおりに縮まないことがあります。例えば、230mm程度になるはずのレンガが235mmになる。天然原料を使用している以上、1〜2mm程度の寸法差は想定しています。しかし、5mmとなると、単なるばらつきでは説明しにくくなります。

なぜ、思ったほど縮まないのか。

以前から、そこに違和感がありました。

焼き過ぎたレンガが、大きくなった

そんな中、窯のトラブルが発生しました。岡田煉瓦では、レンガを積んだ台車を少しずつ移動させながら焼成する、トンネル窯を使用しています。今回は、窯のトラブルによって、火をつけたまま台車の移動を停止することになりました。その結果、一部のレンガは通常よりも長く熱を受け、焼き過ぎの状態になってしまいました。焼き上がったレンガを確認すると、三つの現象が起きていました。一つ目は、レンガ同士がくっついてしまう「溶着」。二つ目は、レンガの内部が黒くなる「黒芯」。そして三つ目が、寸法の増大です。

230mmを狙っていたレンガが、240mmになっていました。

すべてのレンガが240mmになったわけではありませんが、一部のレンガで想定よりも大幅に大きな寸法が確認されました。

写真:今回の焼成で寸法が大きくなったレンガ。251mmの型で成形し、焼成後230mmを狙いましたが、写真のレンガは240mmになりました。黒芯や溶着も確認されています。

通常、焼成が進めば、焼結によってレンガは収縮していきます。しかし今回は、溶着するほど焼かれているにもかかわらず、寸法が大きくなっていました。

焼きが足りないから縮まなかったのではなく、焼き過ぎたことで膨らんだのではないか。

この現象を見て、そう考えるようになりました。

焼結が進んでも、レンガは膨らむ?

今回の現象をきっかけに、焼成について改めて調べてみました。そこで知ったのが、「膨れ(ブローティング)」という現象です。通常、レンガは焼成が進むにつれて焼き締まり、収縮していきます。しかし、原料や焼成条件によっては、内部に発生したガスが気泡となり、逆に膨らむことがあります。高温で素地の一部が軟らかくなり、内部のガスが逃げにくくなると、気泡が成長してレンガ全体が膨らむ場合があるのです。つまり、焼結が進めば、必ず縮み続けるというわけではありません。

焼きが足りなくても寸法が大きくなる。焼き過ぎても、膨らんで大きくなることがある。

同じように寸法が大きくなっていても、その理由はまったく違う可能性があります。今回のレンガが実際にブローティングによって膨らんだのかは、まだ確認できていません。ただ、溶着や黒芯、寸法の増大が同時に確認されたことから、膨れも考える必要があると感じています。

テストピースと本生産。何が違うのか

ここで、以前から感じていた収縮率の違和感について、もう一度考えてみました。テストピースと本生産では、大きな違いがあります。

テストピースの厚みは25mm。本生産のレンガは60mmです。

通常のレンガでも、焼成中に内部でガスが発生している可能性はあります。しかし、これまで使用してきた原料では、仮に膨れが起きていたとしても、完成寸法への影響は小さく、1〜2mm程度の誤差として収まっていたのかもしれません。ところが、今回の原料は違います。もしかすると、この原料には、焼成中のガスや膨れの影響を無視できないほど大きくする成分が含まれているのではないか。さらに、厚み25mmのテストピースでは、その影響が小さく、焼結による収縮が主体となる。一方、厚み60mmの本生産品では、内部のガスが逃げにくくなるなどの理由から、膨れの影響が大きくなる。

テストピースでは「焼結による収縮」が主体。本生産では「焼結による収縮」に、無視できない「膨れ」が重なっているのではないか。

そう考えると、以前から説明できなかった収縮率の違いにも、一つの仮説が生まれます。もちろん、まだ確かめられたわけではありません。しかし、今回の窯のトラブルによって、溶着や黒芯、寸法の増大が確認されたことで、この可能性を強く意識するようになりました。

赤系と白系、二つの焼成基準

私は、学校で窯業を専門的に学んだわけではありません。レンガづくりについて知っていることのほとんどは、岡田煉瓦で実際に経験してきたことです。弊社では、三河や瀬戸などで採掘される粘土を使用しています。そうした原料を長年焼成してきた経験から、私の中には大きく二つの基準がありました。

「赤系」と「白系」です。

弊社での経験では、赤系のレンガは比較的低い温度で焼き過ぎによる変化が起こりやすく、白系のレンガはそれよりも高い温度まで焼成できる傾向があります。例えば、赤系のレンガを高温で焼き締める「焼過」を製造する際には、焼成温度の限界を意識しています。弊社の窯では、赤系レンガの1,200℃付近が一つの限界です。それ以上に焼こうとすると、変形や溶着などの問題が起こりやすくなります。私にとって、赤系は焼成温度の限界が比較的低い原料でした。ところが、今回のOEM製品には、通常とは異なる原料が含まれています。その原料には、加熱によって溶ける成分もあります。そして、テストピースと本生産の収縮率が合わない。さらに今回、焼き過ぎによって寸法が大きくなる現象が確認されました。そこで、一つの可能性が浮かびました。

もしかすると、この原料は、赤系レンガよりもさらに低い温度で焼成の限界を迎えるのではないか。

これまで私が持っていた「赤系」と「白系」という二つの基準。今回の原料は、そのどちらにも当てはまらないのかもしれません。そして、以前から感じていた収縮率の違和感も、そこに関係している可能性があります。

関東ローム層の土を焼いた話

ここで、以前聞いた話を思い出しました。かつて、関東ローム層の土を使ったレンガ製造の依頼があったそうです。その土で成形したレンガを、弊社のレンガと一緒にテスト焼成したところ、弊社のレンガは問題なく焼き上がった一方、関東ローム層の土を使ったレンガは、形を保てずに溶けてしまったと聞いています。同じ窯で、同じように焼いても、原料が違えば結果はまったく違う。もちろん、関東ローム層の土がすべて同じように溶けるという話ではありません。そのときの原料と焼成条件で起きた出来事です。しかし、この話を思い出すと、今回の違和感も少し違った見方ができるようになります。私たちが普段使用している原料では、問題なく焼ける温度。それが、別の原料にとっては、すでに焼き過ぎなのかもしれません。

焼成温度の限界は、レンガという製品で一つに決まるものではなく、原料によって違う。

当たり前のことのようですが、今回の出来事を通して、その意味を改めて考えるようになりました。

計算が合わない。その理由を考える

焼結は、基本的には温度が高くなるほど進みます。そのため、これまでは収縮率が足りない場合、焼成温度や焼成時間をどう調整するかを考えていました。しかし、今回知った「膨れ」という現象を考えると、単純に温度を上げればよいとは限りません。焼結が進んで収縮する段階もあれば、その先で膨れが起こり、寸法が大きくなる段階もあるかもしれない。しかも、その境目は原料によって違う可能性があります。通常のレンガでは誤差として収まっていた現象が、原料が変わることで、無視できない大きさになるのかもしれません。

もちろん、まだ仮説です。

今回の製品について、どの温度で何が起きているのか、すべてが分かったわけではありません。ただ、これまでの経験では説明できなかった現象に対して、新しい考え方を持つことができました。

焼き物の不思議

私はこれまで、岡田煉瓦の窯で、岡田煉瓦の原料を焼いてきました。そこで積み重ねた経験が、私にとっての焼き物の常識でした。しかし、原料が変われば、その常識が通用しないこともあります。焼けば縮む。さらに焼けば、もっと縮む。そう単純にはいかないのが、焼き物なのだと思います。今回のレンガが、どのような過程を経て大きくなったのか。まだ答えは出ていません。ただ、今回の出来事を通して、もう一つ考えたことがあります。

私が知らなかっただけで、昔の窯業の世界では、当たり前に知られていたことなのかもしれない。

窯業は、かつて日本各地で盛んに行われてきた産業です。しかし、産業の縮小とともに、工場が減り、技術者が減り、焼き物について経験をもとに語れる人も少なくなってきました。長い年月をかけて積み重ねられた知識や技術の中には、十分に受け継がれないまま、失われつつあるものもあるのではないでしょうか。一方で、今はAIという新しい道具が登場しました。以前なら、専門書を探し、膨大な資料を読み、詳しい人に教えてもらわなければたどり着けなかった知識にも、比較的簡単に触れられるようになりました。今回の「膨れ」という現象も、その一つです。もちろん、AIの説明がすべて正しいとは限りません。昔の資料を読み解くことと、実際に窯で起きていることを確かめることは、別の話です。それでも、先人たちが残した知識と、今の工場で起きている現象を結びつける手がかりにはなります。

新しい技術によって、失われかけていた古い知識を学び直す。

それは、面白い時代になったとも言えるのかもしれません。1897年の創業以来、岡田煉瓦はレンガをつくり続けてきました。その歴史の中で受け継いできたものもあれば、いつの間にか分からなくなってしまったこともあるのでしょう。だからこそ、今からでも学び続けたいと思います。実際に焼いて、確かめて、考える。そして、分かったことを次の世代に残していく。

焼き物は、奥が深い。

だからこそ、面白いのだと思います。

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