OKADA BRICK 岡田煉瓦製造所

Column

コラム

「謹製」という言葉に込めて

受け継がれる、
 ものづくりの姿勢

2026.10.24

新しいのに、懐かしい煉瓦壁。

― 歴史への敬意を、新しい壁に込める ―

愛知県半田市にあるMIMを訪れたときのことです。歴史を感じる建屋に暖簾。その奥には、赤煉瓦の建物が広がっています。古いものと新しいものが、自然に共存している。私は、この建物の雰囲気がとても好きです。そして、煉瓦メーカーとして興味を持ったのが、その壁のつくり方でした。半田市には、明治時代に建てられた「半田赤レンガ建物」があります。この建物の煉瓦は「イギリス積み」です。煉瓦の長手面と小口面が交互の段に現れる、伝統的な積み方です。一方、MIMの壁は、煉瓦を積み上げているのではなく、レンガタイルを使用しています。二丁掛(210×100×60)と小口(100×100×60)を組み合わせることで、あたかもイギリス積みで煉瓦を積んだように見せています。レンガタイルは、単に煉瓦の色や質感を壁に与えるだけではありません。本物の煉瓦を積んだような表情をつくることもできます。だからこそ、積み方まで意識されていることに、こだわりを感じました。さらに面白いのが、弊社の「テッセラ」が組み合わされていることです。テッセラは、煉瓦を割ることで生まれる自然な割肌を生かしたレンガタイルです。金型で模様をつけるのではなく、実際に割ることで、不規則な凹凸が生まれます。その割肌は、古い煉瓦建築に見られる、表面が剥離した煉瓦にもどこか似ています。それを見たとき、ふと思ったのです。

「あれ? これは半田赤レンガ建物を意識したのではないだろうか。」

イギリス積みを思わせる壁。そこに、古い煉瓦の剥離を思わせるテッセラを混ぜる。そして、歴史を感じる建屋や暖簾と、赤煉瓦の建物を組み合わせる。もしかすると、設計された方は、古い建物をそのまま再現するのではなく、昔の建物が持つ魅力を取り出して、現代の建材で組み立て直したのではないだろうか。そんなことを考えました。もちろん、設計された方の意図を伺ったわけではありません。本当の答えは知りません。でも、私はそれでよいと思っています。建物を見ながら、なぜこの素材を選んだのだろう、なぜこの積み方にしたのだろう、と考えてみる。

設計された方の考えを想像することも、建築を見る楽しさの一つだと思うのです。

答えを知らないからこそ、想像できることもあります。MIMの壁を見たとき、私は勝手ながら「なるほど」と共感してしまいました。昔のものを、そのまま再現するのではない。

昔の建物が持つ魅力を取り出し、現代の素材と技術で再構築する。

懐かしいけれど、新しい。私には、そんな建物に見えたのです。

古い煉瓦の、何が美しいのか。

私は、古い煉瓦建築を見るのが好きです。半田赤レンガ建物、ノリタケの森、舞鶴赤れんが倉庫。こうした建物には、長い年月を経たからこその魅力があります。煉瓦の色は一つひとつ異なり、表面には汚れや傷、剥離が見られます。角が欠けたものもあれば、長い年月の中で風合いが変わったものもあります。決して均一ではありません。しかし、その不揃いな表情が集まることで、建物全体に不思議な美しさが生まれています。弊社では、歴史的な煉瓦建築の補修に使用する「復元レンガ」を製造することがあります。復元の仕事では、既存の煉瓦に馴染むことを大切にしています。寸法や色合い、表面の質感などを確認し、できるだけ違和感のない煉瓦を目指します。古い建物を守り、次の世代につなぐための大切な仕事です。その一方で、少し矛盾した気持ちになることがあります。古い煉瓦壁を見ると、表面が剥離している部分があります。剥離は煉瓦の劣化の一つであり、状態によっては補修が必要になります。それは、メーカーとして十分に理解しています。しかし、その剥離した部分を見て、「美しいな」「直してしまうのは勿体ないな」と感じる自分もいるのです。長い年月、雨や風にさらされながら、そこにあり続けた煉瓦。その時間の積み重ねが、表面の傷や剥離として残っている。私には、それが単なる劣化ではなく、建物が歩んできた歴史のように感じられます。もちろん、保存や安全のために必要な補修を否定するものではありません。ただ、古い煉瓦建築の魅力を考えるとき、傷や剥離も大切な要素の一つではないかと思うのです。

古い煉瓦壁の魅力を、分解してみる。

古い煉瓦建築の魅力は、年月を経なければ生まれないのでしょうか。もちろん、長い時間そのものを再現することはできません。しかし、その魅力を構成する要素を考えてみることはできます。例えば、色の違い。明るい赤、暗い赤、茶色、黒ずんだ色。製造時の焼き上がりの違いや、長い年月による変化が重なり、さまざまな色が混ざり合っています。次に、表面の違い。滑らかな部分もあれば、ザラザラとした部分もあります。剥離によって内部の肌が現れた煉瓦もあります。そして、角の欠けや不揃いな形。少し丸みを帯びた角や欠けた部分が、古い壁ならではの柔らかな表情を生み出しています。さらに、煉瓦の積み方。イギリス積みのような伝統的な積み方には、長手と小口が繰り返される独特のリズムがあります。色、表面、形、積み方。こうした要素を組み合わせることで、古い煉瓦建築が持つ魅力を、新しい建築でも表現できるのではないでしょうか。

同志社では、色をつくった。

実は、弊社では以前、同志社の建物に使用する煉瓦を製造した際、古い煉瓦の雰囲気を意識して、焼成温度を変えた「濃・中・淡」の3種類を製造したことがあります。同じ赤煉瓦でも、焼成温度によって色合いが変わります。その違いを組み合わせることで、新しい煉瓦でありながら、古い煉瓦建築を思わせる色幅を表現しました。

ただし、これは通常の製造方法ではありません。弊社では、全長約60mのトンネル窯で煉瓦を連続焼成しています。基本となるのは酸化焼成と還元焼成の2種類で、通常は焼成温度をむやみに変更しません。温度を切り替える途中には中間品が生まれますし、それを避けようとすれば、製品の代わりにダミーを入れる必要があります。場合によっては夜間の温度変更も必要となり、焼成管理のリスクが大きくなるからです。そのため、こうした方法は、歴史的な建物の復元レンガなど、特別な目的がある場合に採用するものです。通常のカタログ製品として、気軽にご案内できる方法ではありません。それでも、この製造経験は、私の中に一つの可能性として残っています。

今度は、そこにテッセラを加えたい。

同志社では、焼成温度を変えることで、古い煉瓦壁のような色幅を表現しました。MIMでは、通常の煉瓦タイルの中にテッセラを組み合わせることで、表面に変化をつけていました。

この二つを組み合わせたら、どうなるだろう。

濃・中・淡の赤煉瓦に、自然な割肌を持つテッセラを混ぜる。必要であれば、タンブル加工によって角を少し欠かせてもよいかもしれません。そして、イギリス積みのような伝統的な積み方を意識する。色の違いだけではなく、表面の違いや角の欠けまで組み合わせることで、古い煉瓦倉庫のような奥行きのある表情が生まれるのではないでしょうか。もちろん、実際に製造するには、焼成条件や数量、コストなど、検討しなければならないことがたくさんあります。しかし、私は一度やってみたいと思っています。

復元ではなく、再構築する。

ここで大切にしたいのは、古い煉瓦壁をそっくり再現することではありません。歴史的な建物の補修では、既存の煉瓦に馴染ませることが求められます。それは、古い建物を守るために欠かせない仕事です。一方、新しい建物であれば、必ずしも昔の煉瓦をそっくり再現する必要はありません。古い煉瓦建築が持つ魅力を取り出し、今の建築に合う形で組み合わせればよいのです。

復元するのは、古い建物を守るため。

再構築するのは、その魅力を新しい建築につなぐため。

どちらも、歴史的な煉瓦建築への敬意から生まれるものだと思います。私が今つくってみたいのは、後者です。新しい建物なのに、どこか落ち着く。初めて見る壁なのに、昔からそこにあったように感じる。昔の煉瓦を再現したのではなく、昔の煉瓦建築への敬意が感じられる。

新しいのに、懐かしい煉瓦壁。

そんな壁をつくってみたいのです。

まだない煉瓦壁を、一緒につくりたい。

岡田煉瓦製造所は、1897年創業の煉瓦メーカーです。今も各地に古い煉瓦建築が残り、その建物に魅力を感じてくださる方がいます。しかし、そうした方々に向けて、私たちは何を提案できているのだろうか。古い煉瓦倉庫が好きな方に、その魅力を新しい建築でも楽しんでいただける製品があってもよいのではないか。最近、そんなことを考えています。今回ご紹介したのは、完成した新製品ではありません。同志社での製造経験と、MIMの建築から感じたことをきっかけに、私が今、つくってみたいと考えている煉瓦壁です。まずは小さな壁で試してみるのもよいと思います。けれど、できることなら、この考え方に共感してくださる設計者の方と一緒に、実際の建築で形にしてみたいのです。住宅や店舗はもちろん、公共施設や大きな建築プロジェクトの中で、こうした煉瓦壁が採用されることがあれば、メーカーとしてこれほどうれしいことはありません。古い煉瓦建築を見て感じる、あの何とも言えない魅力。それを、今の私たちのものづくりで表現できたら。

古い煉瓦を再現するのではなく、古い煉瓦建築が持つ魅力を、今の技術で再構築する。

歴史への敬意を、新しい壁に込める。

そんな仕事を、いつか設計者の方と一緒に実現してみたいと思っています。

戻る
consultation レンガに関する
ご相談はこちら
Online Shop オンラインで
レンガを購入する