OKADA BRICK 岡田煉瓦製造所

Column

コラム

「謹製」という言葉に込めて

受け継がれる、
 ものづくりの姿勢

2026.11.03

小さな町にトレーラー20台。2006年、豊洲の大騒動。

― 昔の不便な時代だからこそ起こった、ちょっと面白い話 ―

今回は、今から20年ほど前のお話です。2006年といえば、スマートフォンもまだ普及しておらず、パソコンのソフトも今ほど便利ではなかった時代。そんな昔だからこそ起こった、今では笑える話をご紹介します。舞台は、東京都江東区の豊洲。当時、岡田煉瓦製造所に、とてつもなく大きなレンガ舗装の引き合いが舞い込んできました。その面積、なんと25,000㎡。小さなレンガメーカーにとって、桁違いの規模の仕事でした。

月産8,000㎡の工場に、25,000㎡の仕事

岡田煉瓦製造所の生産能力は、月に約40万個。舗装面積に換算すると、約8,000㎡分です。つまり、25,000㎡という仕事は、工場の生産能力の3か月分以上に相当します。しかも、工場では豊洲のレンガだけをつくっているわけではありません。ホームセンター向けの赤レンガもあれば、全国各地の建設現場からの注文もあります。すでに決まっている仕事を止めて、豊洲のレンガだけをつくるわけにはいきません。さて、どうしたものか。そこで、ほかの仕事を同業のレンガメーカーにお願いすることにしたそうです。自社でつくる必要のあるレンガを優先し、ほかの仕事は同業者に協力してもらう。そうして、何とか豊洲のレンガを焼き上げたと聞いています。レンガは、注文が入ったからといって、翌日に完成するものではありません。粘土を成形し、乾燥させ、窯に積み込み、高温で焼き上げる。そして、冷ましてから取り出します。特に、乾燥や焼成には必要な時間があります。急いだからといって、その時間を簡単に短縮することはできません。

レンガを焼く時間は、都合よく早められないのです。

だからこそ、同業者の力を借りる。それしか方法がなかったのでしょう。

写真説明:豊洲のレンガ舗装。岡田煉瓦製造所のレンガが使われた街並み。

石原都知事の視察で、納品が前倒しに

さて、同業者の協力も得ながら、何とか豊洲のレンガを焼き上げました。ところが、ここで思わぬ出来事が起こります。当時の東京都知事は、石原慎太郎氏。石原都知事が豊洲の現場を視察することになり、急遽、レンガの納品が前倒しになったそうです。レンガはすでに焼き上がっています。あとは現場へ運ぶだけ。ところが、この「あとは運ぶだけ」が、そう簡単ではありませんでした。

小さなレンガ工場に、トレーラー20台

岡田煉瓦製造所があるのは、愛知県安城市。周囲には田んぼが広がる、のどかな場所です。そして、私たちの工場は、決して広い敷地ではありません。

大型トレーラーが工場に入れるのは、一度に1台だけ。

しかも、トレーラー1台に積み込むレンガは、20パレット近くにもなります。そのレンガを、フォークリフトで一つずつ積み込んでいきます。20パレット近いレンガを積み終えるには、それなりの時間がかかります。積み込みが終わって、ようやく次のトレーラーを入れることができます。普段であれば、それでも何とかなります。ところが、この日は違いました。納品が前倒しになったことで、次から次へとトレーラーがやってきたのです。

その数、なんと1日に20台以上。

工場に入れるのは1台だけ。積み込みには時間がかかる。でも、次のトレーラーがやってくる。当然、待っているトレーラーは増えていきます。そして、ついには……。

小さな町に、トレーラーの渋滞が発生しました。

田んぼが広がるのどかな町に、大型トレーラーがずらり。近所の人たちは、何事かと思ったのではないでしょうか。レンガは焼き上がっている。運ぶトレーラーも来ている。でも、積み込みが追いつかない。

レンガはある。トレーラーもある。でも、工場には1台しか入れない。

今となっては笑い話ですが、当時の工場は大変だったと思います。

写真説明:岡田煉瓦製造所でのレンガ積み込み風景。フォークリフトでパレットを一つずつ積み込んでいきます。(参考写真)

あれだけ頑張って、売上1,000万円?

さて、ここからが今回のオチです。豊洲の仕事で、工場は大忙し。あれだけのレンガを出荷したのだから、月の売上は数千万円になるだろう。そんな予想をしていたそうです。ところが、当時使っていた販売管理ソフトで月間売上を確認すると……。

1,000万円。

「あれだけ頑張って、1,000万円しか売上がないのか?」

当然、社内がざわつきます。

「いや、そんなはずはないだろう。」

「でも、ソフトには1,000万円と表示されているし……。」

何かがおかしい。まさか……。でも、そんなことがあるのだろうか。

消えた1億円

調べてみると、驚くべきことが分かりました。その月の売上は、1,000万円ではありませんでした。

なんと、1億1,000万円。

当時使っていた古い販売管理ソフトは、9,999万円までしか表示できない仕様でした。そのため、1億円の桁が消え、画面には1,000万円と表示されていたのです。数千万円にはなるだろうと予想していた売上。しかし、実際には1億円を超えていました。

予想を超えていたのは、売上だけではありません。ソフトの表示能力まで超えていたのです。

ちなみに、1億1,000万円は豊洲の仕事だけではなく、ほかの仕事も含めた単月の売上です。今となっては笑い話ですが、当時はさぞ驚いたことでしょう。それにしても……。

売上が少ないと思って調べたら、1億円が消えていた。

昔のレンガ屋には、こんなこともあったようです(笑)。

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