2026.10.15
凍害と、上手く付き合う。
― 北海道で学んだ、レンガと寒さの関係 ―
「このレンガは、凍害を起こしますか?」
寒冷地でレンガの使用を検討されているお客様から、ときどきいただく質問です。
「はい、起こします」
と答えれば、レンガは使えないと思われるかもしれません。
反対に、
「いいえ、起こしません」
と答えることもできません。レンガは水を吸う建材です。内部に含まれた水分が凍結することで、凍害が発生する可能性があります。しかし、凍害が起こる可能性があることと、実際に凍害が起こることは、同じではありません。大切なのは、凍害が起こるか、起こらないかという二択ではなく、どうすれば凍害のリスクを減らせるのかを考えることではないでしょうか。
北海道で、凍害について学ぶ
2026年9月、日本れんが協会の北海道研修の一環として、札幌市にある国立研究開発法人 土木研究所 寒地土木研究所を訪問しました。日本れんが協会は、全国のレンガメーカーや施工会社などで構成される団体です。今回の見学では、レンガに限定せず、寒冷地における建設材料の凍害について学びたいとお願いしました。寒地土木研究所では、コンクリート構造物やアスファルト舗装などについて、寒冷地での耐久性や維持管理に関する研究が行われています。レンガそのものを専門に研究されているわけではありませんが、他の建設材料で培われた考え方には、私たちにも参考になることが多くありました。


凍害は、寒ければ起こるわけではない
今回、改めて考えさせられたのが、凍結と融解の繰り返しです。例えば、最低気温がマイナス5℃、最高気温がプラス5℃の日。気温だけを見ると、一日の中で凍結と融解が起こり得る条件になります。こうした日が、1年間365日のうち何日あるのか。凍害の危険度を考えるうえで、一つの重要な指標になります。研修では、日本建築学会の「コンクリート凍害危険度マップ」も紹介されました。北海道の広い範囲が、凍害危険度の高い地域として示されています。

しかし、このマップはコンクリートの凍害危険度を示したものであり、レンガが実際に何年で、どの程度傷むのかを示したものではありません。さらに、同じ地域でも、日当たりや水分の供給状況、使用場所によって条件は変わります。
気象条件として凍害の危険度が高いことと、実際にレンガが大きく損傷することは、必ずしも同じではないのです。
なぜレンガに凍害が起こるのか?
そもそも、なぜ水が凍るとレンガが傷むのでしょうか。水は氷になると、体積が約9%増加します。レンガは硬い焼き物ですから、ゴムのように自由に伸び縮みすることはできません。ただし、レンガの内部には目に見えない細かな空隙があり、水が入り込む通り道もあります。内部に含まれた水分が凍結すると、氷の形成や水分の移動によって圧力が発生することがあります。この圧力がレンガの抵抗力を超えると、ひび割れや表面の剥離につながります。もちろん、水が凍れば必ずレンガが傷むわけではありません。重要なのは、レンガの内部にどれだけ水分が含まれているかということです。例えば、雨が当たっても乾燥しやすい場所と、雨や雪によって常に水分が供給される場所では、凍害の危険性が異なります。特にレンガ塀の天端などは、水分を多く含んだ状態になりやすく、注意が必要です。また、レンガ内部の空隙の大きさやつながり方も、凍害の起こりやすさに関係します。つまり、凍害は単に寒いから起こるのではなく、レンガに含まれる水分の量や内部の構造、使用環境によっても変わるのです。
吸水率が低ければ、凍害は起こらない?
岡田煉瓦では、赤レンガと焼過レンガを製造しています。弊社製品の吸水率は、代表的な試験値で次のようになっています。
- 赤レンガ:約8.5%
- 焼過レンガ:約6.5%
焼過レンガは、赤レンガより高温で焼成しており、吸水率が低いことから、寒冷地では焼過をおすすめすることがあります。吸水率の低いレンガを選ぶことは、凍害リスクを減らすための一つの考え方です。しかし、吸水率が低ければ、凍害が絶対に起こらないわけではありません。凍害には、材料内部の細かな空隙の状態や、実際にどれほど水分を含んでいるか、凍結融解の条件など、さまざまな要因が関係します。吸水率は重要な判断材料の一つですが、それだけで凍害の有無を断言することは難しいのです。
北海道で気づいた、自分自身の思い込み
今回の研修では、北海道江別市の米澤煉瓦さんも訪問しました。北海道は、凍害危険度の高い地域です。しかも、米澤煉瓦さんは長年にわたり、北海道でレンガを製造されているメーカーです。私は当然のように、凍害によって傷んだレンガをいくつも見せていただけるものと思っていました。そこで社長にお願いしました。
「実際に凍害が起きているレンガを見せていただけませんか?」
ところが、すぐに具体的な事例が出てくるわけではありませんでした。その後、案内していただいたのは、長い年月を経た古いレンガ壁です。社長が指さしたのは、その一部が少し剥離している箇所でした。凍害によるものだと教えていただきました。正直なところ、私は少し拍子抜けしました。
「え? この程度なの?」
凍害であることを疑ったわけではありません。ただ、その傷み方は、寒冷地以外でも長年使用されたレンガに見られるようなものでした。塩類による劣化などでも、似たような剥離を見ることがあります。これだけ古い壁であれば、多少の傷みがあっても不思議ではありません。北海道には、レンガの塀も、煙突も、舗装もあります。これだけ多くのレンガが使われているのだから、凍害の実例も簡単に見つかるはず。そう考えていた自分自身が、少し恥ずかしくなりました。もちろん、今回見たものが北海道の凍害のすべてではありません。深刻な凍害が発生する場合もあるでしょう。それでも、凍害が起こる可能性があることと、深刻な損傷が当たり前のように発生していることは、まったく別の話です。凍害を心配するあまり、私自身がその違いを見落としていたのかもしれません。

凍害を恐れるだけではなく、工夫する
北海道のレンガメーカーとの会話では、凍害が起こりやすい場所への対策についても考える機会がありました。例えば、レンガ塀の天端。雨や雪が直接当たり、水分が入り込みやすい場所です。それならば、天端に水を通しにくい材料を被せ、雨水が入りにくい構造にする方法があります。あるいは、天端を傷みやすい部分と考え、将来補修しやすい構造にしておくという考え方もあります。凍害が起こる可能性を理由にレンガの使用を諦めるのではなく、設計や施工を工夫することで、そのリスクを減らすことができます。私は、こうした考え方が大切なのだと思いました。
北海道で使われ続けるレンガ
北海道江別市の米澤煉瓦さんが製造したレンガは、北海道庁前にある札幌市北3条広場でも使用されています。北海道の冬は厳しく、レンガにとっても決して穏やかな環境ではありません。それでも、北海道では昔からレンガが使われ、現在も街の景観をつくる建材として選ばれています。

今回、北海道でレンガの塀や壁、舗装などを見ました。私が確認した範囲では、凍害によって大きく損傷したレンガが至るところにある、という印象ではありませんでした。もちろん、「北海道で使われているから凍害は起こらない」ということではありません。しかし、凍害危険度が高い地域で、実際にレンガが使われ続けているという事実には、大きな意味があると思います。一方、凍害危険度が比較的低い地域でも、レンガの凍害について心配されることがあります。その心配は理解できます。ただ、危険性があるというだけで使用を避けるのではなく、実際にどのような環境で使うのか、どの程度のリスクがあるのかを考えることが大切ではないでしょうか。
凍害と、上手く付き合う
今回の北海道研修を通じて、私は「凍害」という言葉を少し大きく捉えすぎていたのかもしれないと感じました。レンガは凍害を起こす可能性があります。しかし、レンガが傷む原因は凍害だけではありません。荷重や衝撃、施工条件、長年の使用による劣化など、さまざまな要因があります。凍害は、その中の一つです。木材には腐朽、鉄には錆び、コンクリートにもさまざまな劣化があります。それでも、私たちはそれぞれの材料の性質を理解し、工夫しながら使い続けています。レンガも同じではないでしょうか。もちろん、凍害を軽視してよいわけではありません。安全性が求められる場所では、十分な検討と対策が必要です。ただ、過度に恐れるあまり、レンガという建材の可能性まで狭めてしまうことは避けたいと思います。
「このレンガは、凍害を起こしますか?」
改めて、最初の質問に戻ります。私の答えは、
「凍害が起こる可能性はあります。だからこそ、そのリスクを減らすことが大切だと考えています」
です。吸水率の低いレンガを選ぶ。水が滞留しないようにする。傷みやすい場所は、補修しやすくしておく。材料の弱点を理解し、使い方を工夫し、長く使い続ける。
凍害は、レンガを使わない理由ではなく、レンガを長く使うために考えるべきことの一つ。
今回の北海道研修を通じて、改めてそんなことを考えました。





