2026.10.31
和の街並みに、レンガが似合う理由。
―「粋」から生まれた通水煉瓦と、豊洲の物語。―
レンガといえば、赤茶色のレンガを積み上げた洋風の建物を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。ところが、東京・豊洲には、和の街並みにとてもよく似合うレンガがあります。サンドベージュの落ち着いた色合い。そして、表面に刻まれた4本の斜めの線。実はこのレンガ、私たち岡田煉瓦製造所が長年製造している製品です。今回は、そんなレンガに込められた「粋」というデザインの物語と、豊洲の街並みについてご紹介します。

レンガの肥後屋、オリジナル煉瓦
このレンガは、株式会社肥後屋商店様のOEM製品として、弊社が製造しているものです。肥後屋商店様は、1895年(明治28年)からレンガの施工に携わってこられた、歴史ある会社です。弊社の創業は1897年(明治30年)。どちらも明治時代からレンガに関わってきた会社であり、長年のお付き合いがあります。今回ご紹介するのは、雨水を地中へ逃がすための通水機能を備えた「通水煉瓦」。舗装材としての機能を持ちながら、表面には独特の意匠が施されています。

ご覧いただくと、ところどころに4本の斜めの線が入ったレンガがあることに気づくと思います。規則正しく敷き詰められたレンガの中に、この模様がほどよい変化を生み出しています。私は以前から、このデザインにどこか凛とした雰囲気を感じていました。派手ではない。でも、何となく目を引く。
「なんか、カッコいいなぁ」
そんな印象を持っていたのです。
4本の斜めの線に込められた「粋」
このレンガのデザインを考えられたのは、都市空間を手がけるランドスケープデザイナーの小野寺康先生です。以前、お会いした際に、このデザインに込めた想いを伺う機会がありました。そこで聞いたのが、「粋(いき)」という言葉です。表面に刻まれた4本の斜めの線。そのモチーフは、刀を「シュッ」と振り抜くような動き。日本人が昔から大切にしてきた、さりげない美しさや潔さを表現したデザインなのだそうです。私は、そのお話にとても感銘を受けました。それまで、私はレンガの意匠としてしか見ていませんでした。しかし、その背景にある考え方を聞いたとき、すべてがつながったように感じたのです。
あの凛とした雰囲気には、ちゃんと理由があった。
デザインとは、単に形を整えることではない。そこに込められた想いが、見る人に何かを感じさせるのかもしれません。

レンガメーカーである私たちは、製品をつくることが仕事です。しかし、デザインの背景まで理解すると、同じレンガが少し違って見えてきます。それ以来、この4本の線を見るたびに「粋」という言葉を思い出すようになりました。
豊洲の街に広がるレンガ舗装
このレンガが大規模に採用されている場所の一つが、東京・豊洲です。豊洲のレンガ舗装は、2006年の第1期工事で約25,000㎡。その後も整備が続き、約20年間で合計50,000㎡以上のレンガが使用されてきました。50,000㎡といわれても、なかなか想像できないかもしれません。実際に現地を歩いてみると、どこまでもレンガ舗装が続いているように感じます。その一つひとつが積み重なって、街の風景をつくっています。

レンガは、建物のように目立つ存在ではありません。普段は足元にあるため、意識して見られることも少ないと思います。それでも、街の印象をつくる大切な材料です。多くの人が歩き、時間を重ねることで、その街になじんでいく。そんなところも、レンガの魅力だと思っています。
江戸の街並みと、サンドベージュのレンガ
2024年、豊洲市場に隣接して「豊洲 千客万来」が開業しました。江戸の街並みを思わせる和風の建物が並び、のれんや木の意匠が、にぎやかな雰囲気をつくっています。その足元に広がっているのが、サンドベージュのレンガ舗装です。この景色を見たとき、私は不思議なほど違和感がありませんでした。むしろ、とてもよく似合っている。サンドベージュの色合いは、どこか昔の土の道を思わせます。そして、レンガに刻まれた「粋」のデザイン。江戸の雰囲気を感じさせる街並みと、何とも相性がいいのです。もちろん、このレンガが敷かれ始めたのは、千客万来ができるずっと前のことです。最初から、この景色を想定していたわけではありません。それなのに、時を経て、こんなにしっくりくる街並みができあがった。写真を見るたびに、個人的にちょっとニヤニヤしてしまいます。
「なんか、カッコいいなぁ」
デザインの背景を知っているからこそ、そう感じるのかもしれません。私だけが知っているような、小さな物語。でも、せっかくなら皆さんにも知ってほしい。そんな気持ちで、今回のコラムを書いています。
なぜ、和の建物に洋のレンガが似合うのか?
ここで、ふと疑問が浮かびます。そもそも、なぜ洋風の材料であるレンガが、和の街並みに似合うのでしょうか。これは私なりの考えですが、日本では明治時代から、西洋の文化や建築が取り入れられてきました。その中で、日本の伝統的な建築と西洋の建築が混ざり合う「和洋折衷」の文化も生まれました。レンガも、そんな時代の中で日本の街並みに取り入れられてきた材料の一つです。最初は西洋から伝わったものでも、長い年月を経て、日本の風景の一部になっていく。そして、私たち日本人も、レンガのある風景を自然なものとして受け入れるようになったのではないでしょうか。私は、レンガは必ずしも洋風の建物だけに似合う材料ではないと思っています。色や形、使い方によっては、和の建物にもよく似合う。豊洲の街並みは、そのことを改めて感じさせてくれました。
岡田煉瓦がつくる「真面目なレンガ」
レンガには、さまざまな表情があります。古びた風合いを楽しむアンティーク調のレンガもあれば、角が丸く、不揃いな形を魅力とするレンガもあります。一方、弊社がつくるレンガは、どちらかというと「真面目なレンガ」です。寸法がそろい、形が整い、きちんと並ぶ。少しカッチリとした、生真面目なレンガ。もちろん、焼き物なので一つひとつに色幅や表情がありますが、基本的には規則正しく、整った仕上がりを目指しています。私は、この真面目さも、日本らしさの一つではないかと思っています。丁寧につくること。決められた寸法を守ること。当たり前のことを、当たり前に積み重ねること。そこに、私たちなりのものづくりの姿勢があります。そして、そんな真面目なレンガの表面に「粋」という遊び心が加わる。
真面目さの中に、さりげない粋がある。
これがまた、いいんですよね。
130年つくり続けてきた「日本のレンガ」
岡田煉瓦製造所は、1897年(明治30年)に創業しました。2027年には、創業130周年を迎えます。レンガはもともと西洋から伝わった建築材料です。しかし、日本の土を使い、日本の職人がつくり、日本の街並みの中で使われてきました。約130年もの間、日本でレンガをつくり続けてきた私たちにとって、レンガはもう単なる「西洋の材料」ではありません。私は、「和製レンガ」と呼んでもいいのではないかと思っています。日本の風景になじみ、日本のものづくりの精神が息づくレンガ。そんなレンガを、これからもつくり続けていきたいと思います。
日本のレンガを、これからも。
今回ご紹介した豊洲のレンガは、肥後屋商店様の製品です。デザインを考えた方がいて、施工に携わった方々がいて、そして私たちのようなメーカーがいる。それぞれの仕事が積み重なって、一つの街並みができあがっています。レンガ一つを見ても、その背景にはさまざまな人の想いがあります。普段、何気なく歩いているレンガ舗装。その表面にある4本の斜めの線に、実は「粋」という物語が込められている。そんなことを知っていただけたら、次にレンガの道を歩くとき、少し違った景色に見えるかもしれません。私たちは、これからも日本の街並みに似合うレンガをつくっていきます。
どうか、日本のレンガを応援してください。





