2026.10.21
煉瓦は、割ると面白い。
高層建築と、タイルの厚み。
以前、タイルを取り扱う商社の方とお話しした際、興味深いお話を伺いました。近年、高層マンションなどでは、建物の低層階に高級なタイルを使用し、高層階にはタイルを張らない設計も増えているそうです。その背景の一つに、タイルの剥落に対する安全性への配慮があります。タイルは、モルタルや弾性接着剤などを用いて建物の外壁に張り付けます。もちろん、適切な材料や施工方法によって安全性を確保することが前提ですが、地震などによって外壁のタイルが剥落することへの懸念は、以前からあります。特に高層階では、万が一タイルが落下した場合の影響も大きくなります。安全性がより重視される時代の中で、建物全体にタイルを張るのではなく、人の目に触れやすい低層階に意匠性の高いタイルを採用する。そんな考え方があるのだと知りました。弊社のレンガタイルも、一般的なタイルと比べると厚みがあります。その厚みが理由で、採用を見送られることもあります。しかし、厚みがあるからこそ表現できることもあります。今回は、そんなレンガタイルの特徴を生かしていただいた建物をご紹介します。
煉瓦を、一つひとつ割る。
弊社には「テッセラ」というレンガタイルがあります。この製品は、金型で表面に模様をつけたものではありません。
煉瓦をスタッフが一つひとつ割ることで、独特の表情を生み出すタイルです。
煉瓦を割ると、その表面には「割肌」と呼ばれる凹凸が生まれます。凹凸の大きさは1〜2mm程度。数字だけを見ると小さな違いですが、表面全体に不規則な凹凸が生まれることで、ザクザクとした立体的な表情になります。割れ方は、一つひとつ異なります。大きく凹む部分もあれば、細かな段差が生まれる部分もあります。金型で同じ模様を繰り返しつくるのとは違い、同じ表情のものはありません。さらに、焼成時の窯の火によって生まれる窯変が、煉瓦にさまざまな色合いを与えます。
窯変による色の違いと、割肌による不規則な凹凸。
この二つが組み合わさることで、一枚ごとに異なる表情が生まれるのです。テッセラは、煉瓦のザクザクとした質感を「割肌」という形で、最大限に生かした製品だと思っています。ただし、製造には手間がかかります。煉瓦を一つひとつ割る工程が必要であり、割れ方も一定ではありません。また、割る工程があるため、弊社では厚さ25mmからのご紹介となります。決して薄くて扱いやすいタイルではありません。それでも、この独特の表情を気に入ってくださる方は多く、弊社でも人気のある製品です。

横浜市内の某マンション。赤煉瓦と緑の組み合わせ。
今回ご紹介するのは、横浜市内の某マンションです。建物の低層階に、弊社の赤系テッセラを採用いただきました。写真をご覧いただくと、赤煉瓦の壁面と、周囲の植栽がよく調和していることが分かります。私は、赤煉瓦と緑の組み合わせが好きです。赤煉瓦の温かみのある色合いに、植物の緑が加わることで、建物の表情が柔らかくなります。そこに黒いサッシや落ち着いた色合いの舗装を組み合わせる。私にとっては、間違いのない組み合わせの一つです。そして、もう一つ注目していただきたいのが「目地」です。テッセラは、割肌によって表面に不規則な凹凸が生まれます。さらに、目地を深くすることで、煉瓦一枚一枚の厚みや立体感を生かすことができます。こちらの建物では、黒系の目地が使われています。目地の色が落ち着いていることで、赤煉瓦の色合いや割肌がより際立ち、上質で重厚な印象を受けます。厚みがあることは、必ずしもデメリットではありません。
厚みを隠すのではなく、厚みを生かす。
そんな使い方をしていただいた事例だと感じています。

半田市・MIM。古い煉瓦の表情を、新しい建物に。
もう一つ、ご紹介したい建物があります。愛知県半田市の「MIM」です。半田市といえば、半田赤レンガ建物が有名です。明治時代に建てられた赤煉瓦の建物で、長い年月を経た煉瓦の表情を見ることができます。古い煉瓦建築を見ていると、煉瓦の表面が剥離していることがあります。本来、剥離は劣化の一つであり、状態によっては補修の対象になります。しかし、その剥離した表面に、私は歴史と美しさを感じることがあります。長い年月の中で、風雨にさらされ、少しずつ変化してきた煉瓦。新しく焼き上がった煉瓦にはない、独特の表情です。

MIMでは、そんな古い煉瓦の剥離を思わせるような、テッセラの使い方が目を引きます。一般的に、テッセラは割肌を見せることで、壁面全体にザクザクとした質感を生み出します。しかし、MIMでは、割肌を持つテッセラと、平らな煉瓦が組み合わされています。壁面全体を均一な凹凸にするのではなく、ところどころに荒々しい表情を加える。その見せ方が、古い煉瓦建築の一部が剥離したような印象を生み出しています。新しい建物でありながら、古い建物を思わせる。私は、この使い方がとても面白いと思いました。もちろん、設計された方がどのような意図でこの表現を選ばれたのか、直接伺ったわけではありません。それでも、半田赤レンガ建物をはじめとする、歴史ある煉瓦建築の表情に魅力を感じてくださったのではないか。そんな想像をしてしまいます。テッセラを、このようにほかの煉瓦と組み合わせて使う事例は、あまり多くありません。だからこそ、ぜひ皆さんにご紹介したい見せ方です。

煉瓦の魅力は、使い方で変わる。
同じテッセラでも、横浜市内のマンションとMIMでは、まったく違った表情を見せています。横浜市内のマンションでは、赤煉瓦の色合いと割肌を生かし、植栽や黒系の目地と組み合わせることで、上質で落ち着いた建物の表情をつくっています。一方、MIMでは、テッセラを部分的に組み合わせることで、年月を重ねた煉瓦建築のような表情を生み出しています。どちらも、煉瓦の特徴を理解し、その魅力を生かしていただいた使い方だと思います。私たちは煉瓦を製造する会社です。一つひとつの煉瓦をつくることはできますが、その煉瓦が建物の中でどのような表情を見せるかは、設計される方の発想によって大きく変わります。自分たちがつくった煉瓦を、想像していなかったような使い方で生かしていただける。それは、メーカーとして、とてもうれしいことです。厚みがあることも、割肌が不揃いであることも。見方を変えれば、煉瓦ならではの魅力になります。これからも、そんな煉瓦の特徴を生かしてくださる設計者の方々と、一緒に面白い建物をつくっていけたらと思っています。
煉瓦の魅力は、つくり方だけでなく、使い方によっても広がっていくのだと思います。





